70年目に到達した作品

「わたしもいつどうなるかわかりませんから」

と患者さんがご自分の作品を下さいました。

治療院男性スタッフがうまい具合に取り付けてくれました。

13歳から父親の仕事をならい、80半ばまで70年の間、様々な作品を作ってこられた患者さんです。

照明器具や社寺や庭園の飾りものなどその作品は多岐に渡っています。
デザインから電気のつなぎ方などその全てをご自分で生み出してこられたそうです。

その作品は、今も、日本全国の有名な施設や社寺に置かれていると聞いています。

絶妙なバランスがとれたそれらの作品は、造形の深くない私が言うのもなんですが、いわゆる黄金比というものというものではないかと思える見事なもので、見るものの心を暖かくするような作品です。

真鍮細工は力がいるにもかかわらず、精巧さを求められ、工程で火を使う作業があるなど、手脚はその仕事用に変形し、70年に及ぶ肉体労働の跡がはっきりとわかるほどです。ケアマネジャーさんが、その身体の手入れにマッサージはどうかと勧めてくださったおかげで、80を超えてから引退されるまでの3年足らずを関わらせていただきました。

今は「90歳までこの世においてもらいたいとおもてます」とマッサージのケアを必要として下さっています。

施術中に聞かせて下さるお話は、本物の職人気質とはこういうものなのかといつも興味深くうかがっています。

個性が売り物ではなく、どの商品も手作りだった時代から、大量生産の機械で作れる時代に変化する中で、手作りの商品で、この方にしか出来ない作品を生み出してこられたセンスと努力、仕事への向き合い方は、同じ職人として生きる私の心に深く響いてくるのです。

70年も一つのことを続けた先に見える世界はどんなものでしょうか。
私がその世界に到達するのは、物理的に無理があると思いますが(100歳まで現役で働かないと到達できないので)、覗けるものならのぞいてみたい世界です。
きっと余計なものは全て削げおち、シンプルで穏やかな世界ではないだろうか、作品からもそのようなものが伝わってくるので、そんな気がしています。

いただいた70年目に到達した作品は、治療院の玄関に飾らせていただきました。
大変光栄至極で、私の治療院にはもったいないものかと思いますが、治療院にお越しの際には是非ご覧になっていただけたらと思います。

穏やかな静寂の空間がそこにあるように思います。

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