大往生

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先日、この暑さで、106歳の患者さんがお亡くなりになりました。

先日の大きな地震の時から食も細くなってきていたので、暑さのせいというよりは、本当の大往生だったと思います。

それにしても今まで出会ってきたどの方の最期とも違う、本当に立派な逝き方だったように思います。

主治医の先生が仰るには、食べたり飲んだりできなくなり、枯れるように亡くなるのが一番楽な死に方なのだそうです。
極度の脱水で脳内モルヒネが出て、本人も苦しくなく、夢うつつを行ったり来たりしながら亡くなっていけるのだそうです。

この方はもう栄養を吸収できなくなってきていて、血中タンパクが正常値を大きく下回って来ていました。
ですから先生から、「近いうちです」と聞いていました。

そのとおりに、行くたびに衰弱していかれ、傾眠状態が長くなってきていました。

在宅で「枯れるように」逝かれる時は、誰しもこのような感じなのですが、私が経験したことのない凄さは、もういつ心臓が止まってしまうんだろう、大丈夫かなという雰囲気であっても、こちらの声かけに実にしっかりと、お元気な時のままの声で返事をして下さったということなのです。
声をかけたこちらが意外に感じる反応に驚かされ続けました。

そして、亡くなられる前の日、予定外でしたが、この暑さが心配で、休日の夕方様子を伺いに行きました。

4日ぶりの訪問でしたが、一段と痩せてもう長くはないと一目でわかるご様子でした。呼吸状態も少し痰が絡み、深く呼吸をさせてあげたくなるご様子でした。
それで、訪問看護師さんに連絡をしました。看護師さんは、1時間くらい後に訪問すると言って下さいました。

それまでの間、私ができることは、呼吸状態を少しでも楽にしてあげることだと思いました。
それで、呼吸を補助するようなマッサージをした後、ゆっくりと身体を横に向けて、背中をさすりました。
すると
「そこ!」と大きな声で言われました。
(ああ、ここか。はいはい。がんばりますよー。でもどこにこんな大きな声が出せる元気があるんやろー⁉️)

それから、あまりの酷暑でエアコンが効かず室内は30度になっていました。
フィルターを掃除したり扇風機をまわしたりしてみましたが、温度は下がりません。
暑さのせいでしんどいのか、命が尽きようとする状態なのか判別出来ずにいました。どうしたらようの困ってしまいました。
それで、暑い?と尋ねてみました。
するとまた大きな声で「暑い」と言われました。

(ひえー!暑いんや)
すぐにケアマネージャーさんに連絡して「暑いと言われています。エアコンが効きません」と言いました。ケアマネージャーさんはその後すぐに来て下さいました。

この反応には、本当に驚かされました。

きっと大きな疾病もなくただ大往生の末の命の尽きる様というのはこんな感じなのだろうと思いました。
もちろんこの逝き様は、ケアマネージャーさんを中心に、主治医の先生・訪問看護師・ヘルパーさんと私たち訪問マッサージのチームの支えがあってこその最期だったと思います。

また、その時は考える余裕もありませんでしたが、命が尽きようとするその時にマッサージをしてほしい「そこ」を教えてもらったのは初めてでした。

「そこ」は経穴で言えば、多分、「肺兪」「心兪」あたりなのかなと思います。

亡くなられる前に、「マッサージをしてもらうとその日は楽なんや」と言って下さっていました。
でも、それをポイントで教えていただいたことは、これからの私の治療にとても大きな力になると思います。

うまくは言えませんが、こうして106歳の患者さんは立派に「生きたように死んでいかれ」ました。
「生きたように死んで行く」というのは在宅で多くの看取りをされている秦診療所の秦先生の言葉です。

その後参列させていただいたお通夜の席で、御住職が、
「百歳を超えた命というのは、極限の中にあるそうです。
エベレストの登頂もまた極限の中にあるといいますが、その中で一番こわいのは咳やくしゃみで骨折をすることがあるということなのだそうです。

極限にあるということは、このような日常の行為さえも命取りになるということなのでしょう」
と言われていました。

極限を生きたこの方は、私に様々なことを教え、そしていくつもの忘れがたい記憶を残して下さいました。

鰻を見るたびに私の魂はきっとこの患者さんと過ごした時間にタイムスリップするだろうなと思います。そしてずっとお付き合いをしていけるに違いありません。

心よりご冥福をお祈りいたします。

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