10年間マッサージさせていただいた患者さん

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この8月に、在宅から施設まで(施設入所後は保険が使えなくなり自費治療として)合わせて10年間、お付き合いさせて下さった患者さんが亡くなられました。

最初の訪問依頼は、徘徊ができなくなってしまったお母さんをもう一度歩かせて欲しいというものでした。

徘徊があった方の場合、その介護の大変さから、歩けなくなってホッとしたから、もう歩かないでほしいけど、寝たきりにはさせたくないという依頼を受けることが多い中(そんな上手くはなかなか行かないのですが)、こんな患者さん主体の家族さんもいらっしゃるんだと、どんな方かワクワクしながら面談に望んだように思います。

訪問してみると、わたしより10歳も若い娘さんが、若年性アルツハイマーのお母さんを介護されていました。

患者さんは、ロッキングチェアに座りニコニコされていたように思います。
しかしよく見ると、ロッキングチェアは改造してあり揺らすことが出来なくなっていて、代わりにコマがついて転がして移動出来るようになっていました。

いつも、おしゃれで清潔な洋服に、髪の毛は綺麗に整えられていて、日常的な全てにおいて、自分のことが自分ですることが出来ない、自分の口でうまく自分を表現することが出来ないということ以外は、常に周りの人間を気遣い、自分を気遣われないことには傷つき、そして、いつも娘を心配し、娘が母親に対するリスペクトが足りないと傷つき不機嫌になる、感受性が豊かで、心優しい人。

これが、最初から最後まで変わらないこの患者さんの印象です。

アルツハイマー病は、認知症状と合わせて、身体的には、パーキンソン病と同じような症状を表します。
バランス障害を伴うため、歩けば歩くほどに、重心位置がずれてきて、転倒しないように力を入れれば、入れるほどに、筋肉は固くなりスムーズな動きが出来なくなっていきます。

そしてある日全く歩けなくなるということが起きてしまうように思います。

それは症状の進行ではあるのですが、運動力学的に考えれば、重心位置のズレに伴う筋肉の緊張をその都度戻していけば同じような身体状況で過ごすことが出来、動き続けることで脳の萎縮の進行を最小限に食い止めることが出来るのではないかと考えています。

この方の最大の問題は、日常生活動作に結びつくことに関しては、自発的な動作が困難ということでした。手も足も動くのに、ご飯を自分では食べられない。立って足は動くのに、歩くことは出来ませんでした。

それでも、半ば強引に、室内外を歩いたり(歩かせたりです)、椅子から床に寝たり、床から立ったり、マッサージをしたりしてきました。ひきつれた筋肉を元に戻すのに、優しくないやり方をしたこともしばしばで、「いってぇー」と言わせてしまうこともしばしばでした。

自発的に出来ないことの一番は、気持ちを口から伝えられないことでしたが、思わず出る言葉、意識せず口から出る言葉、相槌や鼻歌は言えるけど、言いたいと思うことは多分ほとんど表現出来なかったのではないかと思います。

ですから、二人きりで、声をかけられ、返答を求められるのは、多分苦痛だったように思います。
そのかわり、私がマッサージをしながら、ご家族と取り留めなく話しているのがお気に入りで、そんな時は、一緒に笑ったり、「そうだよー」と、相槌で二人の会話に割って入って下さったりしていました。

そして、今年に入り、インフルエンザから肺炎になり、食事もうまく喉を通らなくなってしまいました。
少しずつ弱っておられましたが、その姿が最初の頃の様子とほとんどお変わりがないので、アルツハイマーの進行や終末期に入っているのではなく、別の疾患がないか検査してはどうかと施設の職員さんが考えて下さいました。

施設の薦めで検査をしたのは、亡くなられる1か月くらい前でした。

病院の先生も患者さんの様子で、その話に納得してレントゲン撮影をして下さったそうですが、その結果は、アルツハイマーの末期で、今まで口から食事が入っていたことが不思議なくらい。明日命が尽きてもおかしくないと言われたそうです。

私たちは、その事実を知り、患者さんの出来ないことを「責め」励まし続けてきたことに大きなショックを受けました。

脳の指令が途絶えていく中で、みんなの期待に応えようと必死で生きている姿を見せてもらっていたのでした。

もう誰も頑張れと口にしなくなりました。ただただ心地よく過ごしていただけるように関わることを大切にしました。
そして、しばらく後、施設の職員さんとご家族さんがベット周りで談笑するのを聞きながら、本当に眠るように苦しむことなく亡くなられたそうです。

亡くなられたお顔はあまりに美しく、またマッサージをしたくなるくらいでした。

この方もまた、まさに「生きたように死んで行かれた」と思います。

この10年を振り返る時、治療師としては、申し訳ないという気持ちでいっぱいです。
今ならもっと気持ちよく、もう少し機能を回復してあげられたのではないか、もっと楽に動かしてあげられたのではないかと思います。

本当に下手で未熟で申し訳ありませんでした。

それにもかかわらず、未熟な私を受け入れ、いつも気遣って下さったことに心から感謝です。

私は、治療をさせてもらい、暖かく大きな心に包んでもらいながら癒やされ続けてきたのだと思います。本当に本当にありがとうございました。

患者さん、最後まで自費治療をさせて下さったご家族、それから私の訪問をこころよく受け入れて下さった施設の方々に心よりお礼申し上げます。

体圧分散クッション。
仕事で使いたいといただいて来ましたが、私のものになりそうです。

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