患者さんの物語『おはつ』

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「おしんも真っ青、『おはつ』ってテレビで放映してもらなあかんなぁ。私に文才があったら書いて売り込みにいくのに」

初めてお別れを言えた患者さんは、いろいろなご自分の話をよく聞かせて下さったので、私はよく冗談混じりに、でも本気でこう言っていました。

東北で生まれ育ち、幼い頃に父親を亡くし、母方の親戚に引き取られたために、小学校に行くことも出来ず、ずっと子守ばかりさせられていたこと。
バケツで水汲みにいかされ、家に着く頃には、バケツの水が半分になっていたとか、桑の実をこっそり食べては、口が紫色になってすぐばれて怒られたこと。
ようやく子守りから解放され、東京の紡績工場に勤めて、お給金をいただいて暮らせるようになったのに、お母さんに会いたくて手紙を書いたら一緒に暮らそうと言われ喜んで工場をやめてお母さんの家に行ったら、炭鉱を経営している義父に鉱山から石炭や人夫を引き上げるウィンチ巻きの仕事ばかりさせられたこと。
「お母さんは前夫の子どもの私が邪魔だったんかな」と言いながら、それでもお母さんが亡くなる時は病院に行ってお世話してあげたことも話して下さっていました。

また、そこで結婚相手を見つけて、結婚をしたと思ったら酒グセの悪い男だったので、首も座らない乳飲み子を籠に入れて子守をしながら紡績工場で働いて大きくしたこと。

二度目の結婚の男ともうまくいかず、京都で苦労しながら一人で子育てをした話。大人になってから自分で文字を書けるように努力したこと。
ようやく子どもを成人させてから孫を育てなければならなくなった話。
今は、その孫に介護を受けていて、苦労して孫を大きくした甲斐があった、こんな優しい子になるとは思ってもみなかったなどと話をして下さいました。

映画を観ているように語られる話に、聞いている私が一人涙を流してしまうこともよくありました。
彼女の苦労話は、彼女個人のものですが、戦前の東北の貧しさや、当時の人々の生活を想像するに足るもので、苦労というのは人をこんなにも強くたくましくする一方で、幼少期の傷が一生に渡り影を落としていくものだと思うこともしばしばでした。

誰一人として知った人のいない京都での子育ては、本当に大変だったみたいで、よく2人で、京都に溶け込むことの大変さを話し合いました(私も地方出身なので)。
また、幼少期から大人になってまで続いた困難な生活の中で、人と本音で付き合うことの怖れが身に染み付いているようにも感じました。
いろいろ言って下さってはいても、本音の部分は家族以外には絶対に見せないという硬いガードが見え隠れしていたのです。

それが付き合いが一年また一年と伸び、機能が低下してくるにつれ、私が言うのは本当におこがましいのですが、一皮も二皮も剥けて、なんとも言えない深い味わいになっていかれるのが側でいた私にはよくわかりました。
どんな大変な話も深刻な話題も冗談めかしの表現になっていった様子に、諦めと自分を失わない強いものを感じて、最上級のブラックジョークを聞いているみたいで、私はいつもケラケラと笑いながら、心の底からいつか私もこんな視点でものを観られる人間になりたいなぁと思っていました。

あんまりにも私がケラケラ笑うから
「安井さんは私がなんか言うとすぐ笑う。なんでや」とよく言われていましたが、それは付き合ってきた全てを凝縮したような楽しさだったから言葉でうまく表現できないのでした。

確かに最初は、私が「癒す側」でしたが、この頃から私が「癒される側」になっていったように思います。

私の子育てのことや、職場のスタッフのうまく出来ないことも「ここに送ったら私が上手く言ってあげるから」などと身体のケア以外は私の方がずっとお世話になっていたように思います。

この方に限らず、大概はわたしより歳上だったり、障害を受けたことで深い経験をされている方が多いので、治療に行かせていただきながらも、精神的には私の方が癒されることが多いように思いますが、このおうちでは、とりわけても心地よい気持ちで施術させていただいていたように思います。

長いおつきあいがおしまいになってしまって、もうあの最上級のブラックジョークを聞いて癒されることはなくなってしまいましたが、きっと遠くで孫達を見守っているついでに、私のことも見てくださっているに違いないと思っています。

いろいろなことを学ばせて頂いた私は今年はさらにパワーアップして、身体だけではなくて、もっと奥深いところに働きかけられるような、心が元気になるような治療を目指して行きたいと改めて思っています。

どうぞよろしくお願い致します🤲

ハートの中にペガサス(ペガサス)が。ペガサスみたいに飛ぶ一年に。

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